アムジスト雑記

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零 刺青の聲 ファイル 赤い表紙の日記

赤い表紙の日記

雪が降つてゐる。静かな夜。
この窓から見続けた十年の四季の流れも、この雪で最期になるのでしょう。

この雪を見てゐると、何もかもが過ぎ去つたことのやう。
漸く、全ての未練を断ち切ることができました。
この身を縄へと宿し、門を封じましょう。

氷室 緤
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零 刺青の聲 ファイル 異界研究者の手記

異界研究者の手記

生と死の境としての夢を研究するにあたり、被験者を募る。
明確に夢を語れることが条件とあつて審査は難航したが、
「異界」と関りがあるやも知れぬ人物を発見した。

彼は数ヶ月に渡り、同じやうな夢を見続けると云ふ。
それは、以下のやうな夢である。

一、気がつくと、雪の降る小さな社の前に立つてゐる。

二、その社は見たことはあるが、明瞭とした記憶は無い。
  ただ、郷里にそう云ふ場所があると聞ゐたことがある。

三、その社の奥より郷里に残して来た女性の声が聞こゆる。

四、声に誘はれ、毎日同じ夢の場所を少しずつ奥へと進んで行く。

此処までは通常在り得る、
郷里の思ひ出や恋情など欲望が夢へ現出したものであると思はれるが、
興味深きは以下の発言である。

五、其処には古の儀式を行ふ場所があり、死者に逢える場所があると云ふ。

六、社の奥には巨大な洞窟があり、川が流れてゐる。
  その奥には巨大な竪穴があり、その底は海になつてゐる。

此は明らかに「異界」特に「黄泉」と云はれる場所に就ひての発言である。
話を聞くに、彼の郷里には異界と夢に関する伝承があるらしく、
この夢はその話と一致する部分が多く見受けられた。

以後、四日に渡り記録した彼の夢の話は、以下のやうな証言としてまとめられた。

彼は陸奥の出身であるらしく、
その地方には古くから山に「常世海」と呼ばれる海が存在すると云ふ伝承がある。

其処には「寝目」つまり夢に関する伝承が多い。
例へば、夢は「狭間」と呼ばれる「異界と現世の境界」と繋がつて居り、
悪夢を見続けると死者が黄泉返ると云はれてゐると云ふ。

「忌目」と呼ばれるその悪夢を見ぬやうにする為の社があり、
其処には人々の忌目を引き受け、狭間に眠る巫女がゐると云ふ。

彼の聞く声は、その「異界」に関る社にゐる巫女の女性より
「狭間」を解した交信ではないかと思はれる。

蓄音機に証言を記録した次の日の朝、彼は荷物も残し突如失踪した。
郷里の女性の下へと向かったのだらうか。

彼の残した耳飾りは「響石」と呼ばれる石で、
古来より人々の思ひを伝へると云はれてゐる。

鉱石式受信機の改良に利用できるやもしれぬ。
 
 

零 刺青の聲 ファイル 民族学者の手記 一

民族学者の手記 一

蒐集を続けるうち、眠り巫女の発祥であろう神社の存在を知るに至つた。

その神社は、奥深い山にひつそりと建つ小さなものである。
まさに、あの絵図の通りであつた。

平素は参拝者は居らず、
近くにある小さな集落にて話を聞くに「柊を納める」神社であるらしい。

当主らしき女に話を聞いたところ、
雪解けまで客人として滞在を許された。

ここでは山にある聖地を守る儀式を行つて居り、その儀式には男が禁忌である為、
数年に一度客人を招き入れて血を守るのだそうである。
その客人はニイナエと呼ばれるそうであるが、世に云ふマレビトと同じ風習であるで思はれる。

冬、雪の降る中、やつてくる参拝者は皆顔を隠し、台車で大きな袋を引いてゐる。

その姿は、どこか葬列のやうに見える。

彼らの為に行はれる儀式が「眠り巫女」の唄に繋がる儀式なのだらうか。
 
 

零 刺青の聲 ファイル 民俗学者の手記 二

民俗学者の手記 二

境内のあらゆることは「鎮女」と呼ばれる巫女が取り仕切つてゐる。

男である私は屋敷内では一部の部屋しか立ち入りを許されない。
昼の間は自室として充てがわれた部屋に閉じ込められ、
夜は鏡華と云ふ女性の部屋に招かれることとなる。

外界との連絡がほとんどない屋敷内に於ゐて客人は特別な存在であるらしく、
鏡華は私の話を熱心に聞く。

彼女が爪弾く琴の音は、その柳髪と同じやうに繊細で美しい。

私が唄の蒐集をしてゐると云ふと、この地方に伝はる幾つかの俚謡を聞かせてくれた。

「眠り巫女」は矢張りこの神社に関る唄であり、
儀式に際して唄はれる「鎮メ唄」と云ふ唄であるらしい。

鏡華の話では、鎮女達は屋敷に四人居り、
周囲の村落から選ばれたおよそ五歳から九歳までの娘達が年季勤めをしてゐるのだそうだ。

彼女達も、「鎮メ唄」の儀式で重要な役目を持つそうであるが、
その儀式の内容に就いては、鏡華も教えてはくれなかつた。

歌詞から察するに、巫女や文身に関る儀式であると思はれるが、
余り深く詮索するのは礼に失するだらう。
 
 

零 刺青の聲 ファイル 民俗学者の手記 三

民俗学者の手記 三

この神社に入り、半月が経とうとしてゐる。
外の雪はまだ降り続ひてゐる。この雪が解けると、鏡華とも別れ、恐らく、もう戻れなゐのだらう。

男の居らぬ屋敷である。いざとならば逃げることはできやうが、
叶ふことなら、鏡華を連れて行きたい。そう思う心が、私を此処に引きとめてゐる。

時折、近くの集落から参拝者らしき人々が来る。
矢張り、全ての人々が顔を隠し、社の奥に向かって行く。

今日の参拝者は女性らしく、子供ほどの大きさの袋を抱え、泣いてゐるやうに見えた。

そして、あの「鎮メ唄」が聞こえてくる。
「儀式」とは、葬送、山送りのやうなものなのだらうか。
 
 

零 刺青の聲 ファイル 「紅贄祭」について

「紅贄祭」について

この地方に伝はる「秘祭」は「紅贄祭」(あかにえさい)と呼ばれ、
双子の巫女をもつて「黄泉の門」を封じる祭りであるらしい。

「紅贄祭」には「本祭」と呼ばれる定期的に行はれる祭と、
その神事が失敗した時に行はれる「陰祭」(かげまつり)があると云ふ。

それらの神事が全て失敗し「黄泉の門」が溢れる災厄のことを「大償」(おおつぐない)と呼び、
門から死者が溢れ、天を閉ざすと記されてゐる。
 
 

零 刺青の聲 ファイル 双子巫女について

双子巫女について

双子巫女

紅贄祭において、贄として奉げられる双子の巫女。
時として男の双子で行はれる場合もある。 その場合は双子御子と記される。

この地方では、双子とは元々一人であつたものが、
別れてうまれてきたと信じられてゐるやうだ。

紅贄祭とは、この地に伝はる伝承にある、
「二つに分かれた体が一つに合わさる時その巫女は神の子としての力が生じる」
といふ話をもとにしたものらしく、「姉が妹を××し、×へなげ入れる」と記されてゐる。

××の部分は、恐らく文面に書き残すことを忌むやうな儀式なのであらう。
「贄」と云ふ文字がその内容を表してゐる。
 
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